三中 信弘 (農業環境技術研究所/東京大学大学院農学生命科学研究科)
中村 雄祐 (東京大学大学院人文社会研究科・言語動態)
細馬 弘通 (滋賀県立大学・人間文化学部)
田中 純 (東京大学大学院総合文化研究科・超域文化科学)
自然界や人間界で遭遇する事象や現象を巡る情報を「可視化」することは, 図形言語のもつ潜在力をその使い手と読み手に印象付けると同時に, 利用するユーザー側にリテラシーを要求する.現代の新化学や系統学では, さまざまな形式の「系図言語」(ツリーやネットワーク)が広く用いられている. ある図形言語が系統関係や血縁関係を表すために用いられているとき, その図形言語のどの部分にどのような形式でそれらの関係が表示されているのかを読みとる必要がある. 形質情報を要約するツールの観点からみたとき, ツリーやネットワークはメッセージを伝える図形言語としての性格がはっきりする. 系図言語のリテラシーという点でいえば,せっかく高性能のコンピューターを用いて系統関係が推定されたとしても, 系図言語のグラフィック・デザインが貧しいために,あるいは使い手や読み手側のリテラシーが足りないために, 視覚的コミュニケーションに支障をきたす場面もある. 大規模なデータに基づく近年の分子系統解析では, 複雑な構造をもつツリーやネットワークを推定することができるようになった.しかし, そのような巨大で錯綜したグラフィックスとしての系統樹や系統ネットワークを読み解くために十分なリテラシーを 今のわれわれは残念ながらまだ持ち合わせていないのではないか.